
登山道入り口から「白竜の滝」までは気象的に問題はなかったのだが、それから先は雲の中を歩くことになった。

両肩まで迫る草をかき分け急勾配の道を登り、一時間ほど歩いたときに雷鳴を聞いた。
降りる登山客にあいさつがてら情報を収集。
「霧でなにも見えない」
「土砂降りの雨」
そう教えてくれた人たちの姿は泥だらけだった。

姉はジーンズにウォーキングシューズ、自分などは海水浴客。
これ以上の行軍は死を招く。
苦渋の決断。
撤退することにした。
山は逃げない。
挑戦し続ける限り、山はそこにある。
(なんちって)
幸いなことに、来月上旬まで湿原には花が咲いているとか。
そのときの天候が穏やかなことを祈り、山を下りた。

今回の登山(もどき)は辛いことばかりではなかった。
自分の体力、脚力も把握できたし、面白い出会いもあった。
登山口で帰り支度をしていると男に話しかけられた。
「お願いがあるんですよ。
自分たちは増毛側から縦走してきたんですけど、そちらへ帰るのに国道まで運んでくれませんか」
こちらはルートを変えれば方向は同じだから断る理由もなく、二つ返事でOKした。
聞けば、東京から三ヶ月の予定を組んで子供と二人で北海道にある百銘山を踏破する途中らしい。
父五十五歳、息子二十歳。
なんともすごい親子だ。
問わず語りに父が話し出す。
「いや、実は女房が金を持って逃げちゃいましてね。」
「すっからかんになって、残ったのはこのバカ息子だけで。
大学の金はもう払えないから、やめさせたし。
そしたら息子も一緒に行くってんでこうして二人で」
「息子は今回が本格的な登山でしてね。だけど若いだけ合って回復が早い!
悔しいから5キロの水を担がせてます」
「え?美瑛、富良野ですか?
そんな平地に興味ありませんね。山ですよ、山!
山はいいですよぉ!」
積年の恨み という言葉の意味がわかった気がした。
親子の旅の安全と元奥さんの幸せを願わずにはいられない。
人生は 山あり谷あり







